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弦の硬さと発音の速さ・重さ

コントラバスにとって、とくに重視される要素が発音。

発音って、思うにいくつかのレベルがあります。

1. 奏者が弓を動かし始める時点。
2. 弓が弦を駆動し始める時点。(Stickする時点)
3. 駆動された弦が弓を離れる時点。(Slipする時点)
4. 弦の振動が楽器に伝わる時点。

一口に発音といっても、これだけのレベルの差がある。自分がどのレベルで発音が遅いのかを知らなければ、対応しようがないです。

1.2. については、「発音しようと考えていた発音の時点」と「本当に楽器から音が出始めた時点」がどれくらいずれているのかを観察してみよう、ということが第一。
たとえば、メトロノームを使って、それに合わせて発音させてみて、メトロノームの音が聞こえたら、発音が遅れています。
音が完璧に重なって、メトロノームのクリック音が聞こえなくなったら、発音のタイミングがバッチリだということになるんじゃないかと思います。

個人的には、発音の時点は3だと思いますが、3でも、Stick&Slipの周期の形成が曖昧になっていたり、楽器の調整によっては、3と4の間にタイムラグが生じたりします。

他には、タイムラグはないんだけれど、3での発音したときのアタックが足りず、音量が足りないように感じてしまって、その後さらに押し込んだり弓を早くしたりすると「後ふくらみ」になって、発音が遅く聞こえます。
こういう場合は、どんなに汚い音が出てもいいからめちゃめちゃ強くアタックの「瞬間」だけを考えるとか、
アタックの前からアタックの間、アタックの後に、自分が何をしているか、観察すると良いです。
観察というか、動画に撮って見てみると、ショックは大きいですが、得るものも大きいです。


さて、まあ、で、今日の話は、1.2についてなんです。
っていうのは、発音をミスったりするときにも、よくある勘違いのけっこうな部分が、1.2にあると思うので。


さて、まず、ちょっと質問です。
弦は硬い方が発音しやすいですか?
それとも、柔らかい方が発音しやすいですか?




これ、ちょっとトリッキーな質問だと思うんです。
発音のしやすさって、「発音に必要な摩擦力」と「発音までの時間」の二つの要素があるんですが、
しばしば、我々奏者は「発音が重い」「発音が軽い」と言って、両者を混同します。
しかし、厳密には、「必要な摩擦力」と「必要な時間」ってむしろ背反的だと思うんです。

ちょっとこの図を見てみて下さい。

弦の硬さと発音の速さ・重さ_f0221876_01570477.jpg
これは、摩擦力が等しい場合に、「柔らかい」弦と「硬い」弦の発音直前の移動距離をイメージしたものです。
で、これでみると明らかなんですが、
「1. 奏者が弓を動かし始める時点」から、「3. 駆動された弦が弓を離れる時点(Slipする時点)」までの時間が短いのは
「硬い」弦
なんですよ。

でも、大体の方はここで「おかしいな?」と思うはず。
直感的には、経験的には、「柔らかい弦」の方が発音しやすいと思われてるんじゃないでしょうか。

ここにもトリックがあります。

結構な割合で、奏者は、発音する前に必要なだけの弦の移動距離を「多め」に見積もってます。

この図を見てみてください。
弦の硬さと発音の速さ・重さ_f0221876_02122720.jpg
この図は、「発音する直前に必要だと思っている距離」が柔らかい弦と同じだけ必要だと思っている奏者が、発音前にどれだけ硬い弦を移動させようとするか、という観点から描いてみました。
すると、「硬い」弦が発音するのに必要な距離を超えて、赤い矢印の分だけ、力が必要になるんですね。

そして、この力を「重さ」と感じるわけです。

で、この「重さ」というか「摩擦力」を稼ぐために、松ヤニを多めに塗ったり、弓の圧力をかけたりすることになるわけです。

でも、ほんとなら、ただ発音するだけなら、こんなに距離は必要ないはずで、もっと短い距離で、弦は発音し始めるはずです。
にもかかわらず、なぜ、我々は、この距離を稼ごうとしたがるのでしょう?

たぶん、その答えは「アタック・音量が欲しいから」なんだと思います。

確かに、上図のAB間の距離が大きければ大きいほど、アタックは強くなりますし、音量も一応大きくなります。
そういう音が必要な状況も多いと思います。

ただ、そこで覚えておきたいのが、アタックの強さや音量って、それだけで決まっているわけではない、ということですね。

アタックが曖昧になっているケースでは、僕が見聞きしている限りでは、

1. 奏者が弓を動かし始める時点。
2. 弓が弦を駆動し始める時点。(Stickする時点)
3. 駆動された弦が弓を離れる時点。(Slipする時点)

この3点が曖昧になっているケースがかなりあります。
上図のAB間の距離がどれほど小さくても、2と3の時間的な切り替わりがはっきりしていればアタックとしては成立します。
逆に、いつまでたっても2の状態が続けば発音は遅れますし、弦を必要なだけ引っ張る2の作業中に、3が生じ始めてしまえば、やはりアタックは不明確になります。
つまり、時間的な出来事の切り替わりによるアタック、というのもあります。

さらに、音量に関しても、ピチカートなら、最初に与えたエネルギーで全てが決まってきますが、弓で弾く場合、もう少し事態が複雑化しますし、倍音列の出方によって音圧も変化してきます(単純に、倍音が増えれば、音圧が上がります)。

なので、今日の一応の結論としては、

音量やアタックへの欲求を手放してみると、発音はもっとラクになる可能性がある。

もっとラクに発音したときに、「ミスった」ように感じた発音について、どういう状態を自分は「ミスった」ことにしているのかを分析して言葉にしてみると、また別のものが見えてくる可能性がある。

って感じですかね。

by tajimanomegane | 2017-07-24 02:55 | コントラバス・ガンバ | Comments(0)
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